火の歳時記

NO88 平成211027




片山由美子

 
  【火の俳句】第5回 近刊句集から

 岸本尚毅さんの『感謝』は十年ぶりの第三句集である。

   照らされて雨の中より火取虫
   凹みたるところが赤き焚火かな
   狐火や蓬の匂ひしてあはれ
   狐火や絵本の狐みな優し
   螢火やあはれ月ある薄曇
   避暑たのし焼きし魚の歯が焦げて
   暖炉に火なし一切は遺品にて
   流れ去る如き木目の火鉢かな
   世に遠く棲むや火鉢の絵の中に
   焼却炉錆び果つるとも梅白し
   迎火とおぼしき人等火が見えて

 
  火にかかわる句だけを見ても、著者のユニークな発想の一端がうかがえるだろう。散文にしたらばかばかしいだけで終りそうなことが、なぜか俳句の面白さとなる不思議がそこにある。
 永島靖子さんの『袖のあはれ』はほぼ二十年間の作品を収める第三句集。

   一童女棒もて焚火つかさどる
   文反故も花種も火に退職す
   鷭の声聞こえしか火の匂ひしか
   火美し山藤さはに見し日なり
   綿虫の一生や燃ゆる絵?燭
   蛇の衣見し夜の焔咲くごとし
   春火桶藁灰の白にほひたつ
   難しき貌の秋刀魚を焼きにけり
   雪の傘たたむや何ぞ火の匂ひ
   炎のごとし完熟トマト魂棚に
   魂棚に燭の焔ほそき佃かな
   大き葉の吹かれて来り焚火跡
   絵蠟燭をさなきほとけ来給ふや
   菊を焚く焔の先のみだれかな
   わが昭和雑炊があり業火あり
   鯛焼の尾や埒もなきまつりごと
   一邑の火の見が一つ杜若


 さまざまな火のイメージがひろがる作品である。




 (c)yumiko katayama

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