感動を表現する推敲の仕方
石田郷子  いしだ


第59回 2011/2/15   


  原 句  早々と神事の鷽は売り切れに
 
 鷽替は新年の季語です。一年の嘘を鷽に託す、または不幸を幸に替える、などの意味があるようですが、ウソという鳥は雀に似た愛らしい鳥。雄ののどと頬はばら色で美しく、鳴き声が口笛に似ているのでウソという名がつきました。「うそ(嘯)」は口笛のことです。鷽替は、旧暦ならば二月の行事になるでしょう。
 この句は亀戸天神の手作りの鷽がすぐに売り切れてしまったことに驚いてつくったそうですが、大変率直なつくり方で、生き生きとした驚きが出ています。ただ、「神事の鷽」が報告的で、いわずもがなの感があります。「神事」ということばを省きたいところですが、省いてしまうと鷽替の句として鑑賞できなくなります。
 ここは簡単に、

  添削例  早々と鷽替の鷽売り切れに

でよいでしょう。「鷽替」という季語もきちんと入ります。


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  原 句  冬晴のバスの車内に我ひとり
 
 山奥へと入ってゆくバスでの一句です。一人二人とお客さんが降りて、いつのまにか作者一人だけになりました。誰でも経験のありそうな、類想の多い句でしょうが、「冬晴」に心情が出ていて淋しくも楽しげな句になりました。
 類想を免れるのには、「我ひとり」という平凡な「答え」を省き、五感をしっかり働かせて写生をしましょう。

  添削例1  冬晴のバスの車内のひろびろと

 これで十分作者の気分が伝わるはずです。

  添削例2  冬晴やバスの車内のひろびろと

 切字を使って、これでもいいですね。


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  原 句  どの淵も底を顕(あらわ)に冬川原
 
 よく目のきいた句です。冬の水の清冽さ、静かさが目に浮かんできます。残念なのは、「も」「を」「に」と助詞が続くので表現にぎこちなさが感じられることです。「顕」はひらがな表記の方がすんなり心に入ってくるかもしれません。
どの淵も底あらはなる冬川原
 ここで、下五に注目しますと、「川原」で淵の深さがみえにくくなっていることに気づきます。ふつうに、

  添削例  どの淵も底あらはなる冬の川

でよいのではないでしょうか。


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(c)kyouko ishida
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