「絆」―家族で楽しむファミリー句会 第19回

実施日 2010年6月19日 場所 自宅



 こんにちは、佐怒賀家です。蒸し暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、今回は、父の日を前に久々に琴美が帰って来ましたので、強引に「父の日句会」を開催いたしました。
 午後8時半からは、Wカップの日本戦があるため、その前にということで、午後5時過ぎより作句開始。午後6時より1時間半余りの句会になりました。
 こんな句が出されました。

 かはほりの乱舞夕風湿りては            
 蜥蜴(とかげ)つと(よぎ)り尻尾の影残す
 紫陽花の根方にけふの水撒けり
 カーテンの丸く吹かれて梅雨に入る
 ラベンダーつんつく咲かせ無職なる
 青田青田ひとつ飛ばして青田かな
 躑躅(つつじ)一列そこより我が家始まりぬ
 南天咲く風の尻尾のその丈に
 花南天見えカーテンの大揺れに           直美(通称:おとう)

 荒梅雨や伝へそこなふこと二つ          
 それほどの用事でなくて梅雨に入る
 猫は目を伏せて夏蝶やり過ごす
 だうだうめぐりしてががんぼを見失ふ
 パイナップル何とはなしに笑ひ合ふ
 栗の花やすやすと今日終りけり
 げぢげぢに気がつくまでの一ト呼吸
 庭先のみみずふやけて朝が来る          由美子(通称:ままい) 

 片蔭の三毛猫ステップ踏んでいる
 夏の陽のささりて馬はかけていく
 大暑かな老若男馬吸水す
 息暑しぐうたら猫に顔を寄せ
 古めいた扉ばたんと朝曇
 講堂の傘はぽつんと横たわり
 父の日の氷の角の丸まって             琴美(通称:ねね)

 飲み終えたコップの中に氷水
 夏の日の影クッキリなスタジアム
 網戸越し音だけ聞こえる夜の雨
 夏日でも自転車カゴに詰まる猫
 夏の夜何かポチャンと田んぼ道
 公園のカエルの遊び場うまごやし
 夏バテでゲッソリとしたボン太郎          筑美(通称:つう)
 

    


 選句はそれぞれの作品から好きなものに印をつけました。結果は次の通りです。

  直美選  ○荒梅雨や伝へそこなふこと二つ     由美子
       ○だうだうめぐりしてががんぼを見失ふ  由美子
       ○げぢげぢに気がつくまでの一ト呼吸   由美子
       ◎夏の陽のささりて馬はかけていく     琴美
       ◎父の日の氷の角の丸まって        琴美
       ○片蔭の三毛猫ステップ踏んでいる     琴美
       ○大暑かな老若男馬吸水す         琴美
       ○古めいた扉ばたんと朝曇         琴美
       ◎夏の夜何かポチャンと田んぼ道      筑美
       ○飲み終えたコップの中に氷水       筑美
       ○網戸越し音だけ聞こえる夜の雨      筑美
       ○夏日でも自転車カゴに詰まる猫      筑美

  由美子選 ◎かはほりの乱舞夕風湿りては       直美
       ○紫陽花の根方にけふの水撒けり      直美
       ○ラベンダーつんつく咲かせ無職なる    直美
       ○躑躅一列そこより我が家始まりぬ     直美
       ◎父の日の氷の角の丸まって        琴美
       ○夏の陽のささりて馬はかけていく     琴美
       ○古めいた扉ばたんと朝曇         琴美
       ○講堂の傘はぽつんと横たわり       琴美
       ◎夏の夜何かポチャンと田んぼ道      筑美
       ○飲み終えたコップの中に氷        筑美
       ○夏の日の影クッキリなスタジアム     筑美
       ○網戸越し音だけ聞こえる夜の雨      筑美

  琴美選  ◎蜥蜴つと過り尻尾の影残す        直美
       ○紫陽花の根方にけふの水撒けり      直美
       ○カーテンの丸く吹かれて梅雨に入る    直美
       ○躑躅一列そこより我が家始まりぬ     直美
       ◎荒梅雨や伝へそこなふこと二つ     由美子
       ○げぢげぢに気がつくまでの一ト呼吸   由美子
       ◎夏の夜何かポチャンと田んぼ道      筑美
       ○網戸越し音だけ聞こえる夜の雨      筑美

  筑美選  ◎蜥蜴つと過り尻尾の影残す        直美
       ○カーテンの丸く吹かれて梅雨に入る    直美
       ◎猫は目を伏せて夏蝶やり過ごす     由美子
       ○げぢげぢに気がつくまでの一ト呼吸   由美子
       ◎講堂の傘はぽつんと横たわり       琴美
       ○息暑しぐうたら猫に顔を寄せ       琴美

    

 選句の後は、それぞれの句について、みんなで意見交換をしました。

 まずは筑美の句についての選評です。

☆ねねは「夏の夜何かポチャンと田んぼ道」をとりました。たぶん蛙なんだろうけど、それを蛙と言わなかったところがかえって想像させて面白いと思ったのと、つうのその時の様子が伝わって来るのでとりました。「網戸越し音だけ聞こえる夜の雨」は、雨そのものを詠むのではなく、音に注目したところがいいかなと思いました。あと、家の人以外にはなかなか伝わらないとは思いますが、個人的には「夏日でも自転車カゴに詰まる猫」が好きです。(ねね)

☆ままいも「夏の夜何かポチャンと田んぼ道」をとりました。やっぱり「何か」が良くて、私は最初、このポチャンていう音は、つうがジョギングしていて蹴ってしまった小石か何かかなと思ったんですが、他にもいろいろと想像させて、そのことによって夏の夜の深さが感じられるのかなと思いました。「網戸越し音だけ聞こえる夜の雨」は、「音だけ聞こえる」が、音だから「聞こえる」がいらなかったかな。それと「だけ」もなくてもいいかもしれないし、もっと良くなる句だと思います。「夏の日の影クッキリなスタジアム」は、「クッキリなスタジアム」が表現としてはあれなんでしょうけど、Wカップを見ていると、ちょっと遠景に引いたスタジアムの映像の、あの日影と日向のクッキリとした鮮明な違いが表現されていて、句の題材としては良いのかどうか分かりませんが、Wカップ記念ということで(笑)…。「飲み終えたコップの中に氷水」は、飲み終えたのにコップの中に氷水があるというのは、ちょっと矛盾しているようにも思うのですが、でも状況としては分かるのでとりました。私も、「猫」の句は好きでしたが、句としてはとれないかなと思いました。(ままい)

★おとうも「夏の夜何かポチャンと田んぼ道」が一番素直で良いのかなと思ってとりました。ままいも言ったように、夏の夜の深さが見えてくるようだし、たぶん蛙なんだろうなと思いながらも、ちょっとビビっているつうの様子も感じられて好きな句でした。(おとう)

★今回は想像させることをテーマに作ってみたもんで(笑)…。(つう)

★「飲み終えたコップの中に氷水」は、つうが言いたかったのは、飲み終えたコップの中の氷が少し溶けている様子なんだよね。(おとう)

★そうそう、それが言いたかったんだ。(つう)

★だから、それが誤解されずに上手く伝わるように作れれば良かったんだよね。(おとう)

★でも、そこまで至らなかった。力不足(笑)…。(つう)

★「コップの中に」の「中に」はいらないから、もう少し工夫するといいよね。でも、面白いところに目をつけたなと思う。(おとう)

★今回は少し考えさせる句を作ろうと思って頑張ったんだけどね。(つう)

☆だから、作ってる時、いつもと違って黙って真面目な顔してたんだ(笑)…。(ねね)

★「網戸越し音だけ聞こえる夜の雨」は」、ままいが言った通りかな。「夏日でも自転車カゴに詰まる猫」は、おとうは好きだな。(おとう)

☆でも、「自転車カゴに詰まる」は、他の人には分からないんじゃないかな。(ままい)

★そうかな。一般的に猫は結構狭いところなんかが好きだから、情景としては、猫を飼ってる人なら、というか案外みんなに分かってもらえるんじゃないかな。それより、「夏日でも」の「でも」が良くないな。「こんなに暑いのにそれでも」って、説明になっちゃうからね。「夏の日の」で良いんじゃないかな。それよりも「詰まる」が分かりずらいのかもね。(おとう)

★でも、あの小さいカゴにボンレスハムみたいに体をはみ出させながら入ってるのは、やっぱり「詰まる」だよ。(つう)

☆「カゴに入った猫四角」なんてのは(笑)…。(ねね)

★写真を見てもらえば、この話もよく分かってもらえるけどね(笑)…。「夏の日の影クッキリなスタジアム」も悪くはないんだけど、やっぱり「クッキリと」かなあ。(おとう)

★今日はだいたいは出来たんだけど、つうとしては、そのあたりの最後にまとめるところの時間が足りなかった感じかな。(つう)

★「公園のカエルの遊び場うまごやし」は、「うまごやし」ってクローバーのことだから、「カエル」も「うまごやし」も春の季語だよね。(おとお)

★本当は、公園でサッカーをしてて、その時にクローバーの葉に露が残ってて、それを弾きながらボールが転がったとか、むしむししていたことを詠みたかったんだけど、これも時間不足ということで…。でも、「うまごやし」って季語を見つけたんでちょっと使ってみたかったんだよね。それにしても、「カエルの遊び場」って何、自分でも笑っちゃうよね(笑)…。(つう)

★「うまごやし」って俳句的ないい季語だと思うよ。「白詰草」とも言うしね。(おとう)

☆うちの部の馬も好きだけど、馬が好きだから、その肥やしになるので「うまごやし」って言うのかな。(ねね)

★その通り。歳時記にも「和名うまごやしは、良好な飼馬料となるからである」って書いてあるよ。それと、さっき「白詰草」って言ったけど、正確に言うとこれは別物みたいだね。「うまごやしに白花はなく、白詰草と呼ばれるオランダゲンゲを混同しているが、もちろんこれを、うまごやしまたはクローバーと詠んで差し支えない」とも書いてあるよ。(おとう)

★「夏バテでゲッソリとしたボン太郎」は、これこそ他の人には絶対に分からないよね(笑)。

☆これは完全にお化けの句だね(笑)。(ねね)

★それに、「夏バテ」すれば「ゲッソリ」するのは当たり前だから、もし言うにしても「夏バテのボン太郎」でいいんだよね。もちろん、猫シリーズの中の一句なら分かるのだろうけど、このままだと「ボン太郎とは野良猫の名なり」とか前書きを付けないとね。これも写真で見てもらわないとね…。(おとう)

    

 続いて琴美の句についてです。

★つうだけが選んだ「ぐうたら猫」の句は、「息暑し」はそうでもなかったんだけど、下にいる猫をのぞき込んでるような感じで、つうは、車の下に潜り込んでそっぽ向いてるミケ(註:我が家に来るもう一匹の三毛の野良猫。自転車カゴに入るのはこの猫)の句を作りたかったんだけど、「顔寄せて」ってことは高いところにいないからさ、こういうふうにすればつうも作れたかもしれないなって思ってとりました。「講堂の傘はぽつんと横たわり」は、情景が良くわかったのでとりましたが、「傘」が季語なのかな。(つう)

☆そうだね。ままいもとったけど季語がないね。気が付かないでうっかりとってしまいましたが、情景がわかるなってことで、それまでいっぱい居た人が居なくなって、傘だけがぽつんと残ってる様子がいいかなって。一番にとったのは、「父の日の氷の角の丸まって」で、何か父の日で乾杯みたいな感じで、別に氷の角が丸くなったのと父の日は関係ないんだけれど、そこに焦点を絞ってまとめたところがいいと思いました。ただ、それほど個性的ではなくて、ねねらしい句ではないかもしれないなとも思いました。(ままい)

★「日傘」にすれば夏の季語にはなるけどね。(おとう)

☆「冬めいた」の句は、「古めいた扉」と「朝曇」がどう響くのかということだと思うけれど、何となく言いたいことは分かるなということでとりました。でも、もう一息かもしれません。「夏の陽の」の句は、「ささりて」がすごいなと思って…(笑)。まあ独特の表現なんだろうけど、万人の理解は得られないかもしれないと思ったんですが、でも実感なんだろうなって思ってこれをとりました。(ままい)

★おとうはその「夏の陽のささりて馬はかけていく」が一番好きだったんだけど、馬のあの分厚くてかてかと光っている黒い肌を見ると、いかにも夏の陽がささってるって感じがするよね。ただ、やっぱり「ささる」は漢字でかかなきゃね。その雰囲気が出ないよね。その馬が「かけていく」っていうのも躍動感があっていいんじゃないかなって思ってとりました。「父の日の氷」は、さっきままいの言った通りかな。いわゆる上手い作り方の句って感じかな。「片蔭の三毛猫ステップ踏んでいる」は、これは可愛いらしいっていうか、しっかり実景を捉えていていいんじゃないかな。それから、「大暑かな老若男馬吸水す」も面白いんじゃないかな。(おとう)

☆ああ、俳諧味があってね。(ままい)

★「老若男馬」ってのも、女である自分は見てるんだもんね。ねねの部活のことを考えると、「老」は先生で、「若」「男」は部員で、そしてその中心には「馬」がいるわけだからね。「吸水」の「きゅう」はこれでいいのかな。(おとう)

☆「給食の」の「給」? マラソンなんかの「給水所」はそうだよね。(ままい)

★でも、この句では、ガブガブと豪快に水を飲んでる感じだから、この方がいいかな。(おとう)

☆実際に馬の飲み方を見てたら絶対にこの感じだよね。(ねね)

★「古めいた扉ばたんと朝曇」は、「朝曇」が効いてるんじゃないかな。「古めいた」がもっと具体的に、それこそ「講堂の扉」とか、何の扉かがわかった方が面白いんじゃないかな。(おとう)

☆講堂じゃなくて、これは馬事公苑の扉だからな。(ねね)

★実際は違うのかもしれないけど、馬部のことを考えると、「馬柵の扉」なんていうと面白いんだけどね。(おとう)

☆馬部には扉がないいんだもん(笑)。

★「息暑しぐうたら猫に顔を寄せ」は、「ぐうたら猫に顔を寄せ」は面白かったんだけど、「息暑し」がどうなのかなあ。これは猫の息なんでしょ。(おとう)

☆うん。(ねね)

★そこまで言わないで、「暑い」っていう言葉だけでいいんじゃないかな。かえって「息」まで言っちゃうと、ちょっと生々しいというか、生臭いというか…。(おとう)

☆「蒸し暑し」じゃあどう? (ねね)

★それだと、「ぐうたら猫」が当たり前になっちゃうかなあ。少し考えてみようか。「講堂に」の句は季語がないのでとらなかったけど…。「ぽつんと」か「横たわり」かどちらかはいらないよね。どちらかあれば分かるもんね。その分で季語を入れればいいんじゃないかな。(おとう)

☆今日のおとうはねねを高評価してるみたいで、随分とってるよね。(ままい)

★つうのだってたくさんとってるよ。(つう)

★最初にままいのを見たからさ、二人のが良く見えちゃって(笑)…。

☆だって、今日のままいは「鉛筆で書くような名作選」だからね(笑)…。(ままい)


 それでは、その「鉛筆で書くような名作選」のままいの句についてです。

★今日のままいの句は、印が少なくてさびしいね。(おとう)

★だって、分かりずらいのばっかりだったから…。(つう)

☆それはそれは。やっぱり「鉛筆で書くような」ですから(笑)…。(ままい)

★つうは、「猫は目を伏せて夏蝶やり過ごす」をとりました。リズムはそんなに好きじゃなかったけど、ミケなんか蝶なんか飛んでたらバーッと追いかけるけど、でも暑いから動かないや、みたいな感じが、暑いとは言ってないんだけど、そういう感じが出てるなと思ってとりました。「げぢげぢに」の句は、この「げぢげぢ」っていう字に惹かれて(笑)、いかにもげじげじが生きてるって感じでとりました。(つう)

☆ねねは、「荒梅雨や」の句をとりました。雨風の強い荒れた梅雨の中で、何か言わなきゃいけなかったことを忘れちゃったっていうのが、わかるなあと思って、それに「伝へそこなふこと二つ」の言葉の響きも好きでした。「げぢげぢに」の句は、「一ト呼吸」っていうのが、どういうことなのかな。ハッとしったてことなのかな…。(ねね)

☆「見つけてから、“うっ、げじげじだっ”て思う、見てから脳に行くまでの間かな。(ままい)

★だとすると、「げぢげぢと」なのかな。(おとう)

☆まあ、ねね的には、げじげじってそんなに素敵なものではないじゃない。その素敵じゃないものを見つけちゃったという、それに関しての息の詰まりみたいなものなのかなって思って、それならわかるかなって思ってとりました。「猫は目を伏せて」の句は、つうがさっき言っていたのを聞いて、ああそういうことかって思いました。ねねには暑いからだるくてじゃれないってのが想像できなかったけど、それを聞いて読むとそうなのかなって、ちょっと思いました。それよりねねは、「庭先のみみずふやけて朝が来る」は、何か乾燥ワカメが戻ってるみたいな感じで(笑)…。(ねね)

★ふやけてはないよね(笑)。(おとう)

☆だって、ふやけてたんだもん(笑)。(ままい)

☆個人的には結構ツボにはまりました(笑)。(ねね)

★これは死んでたみみずがふやけてたってことなのね。(おとう)

☆干からびてたみみずが雨でふやけたんでしょ。(ねね)

☆たぶんそうなんだと思うけど、ふやけてたんだもん(笑)…。(ままい)

★でも、この句だと、生きてるみみずがふやけてることになっちゃうし、それより俳句の題材にはならないんじゃないかな。(おとう)

★つうも、生きてるみみずがふやけるってどういうことって思ったよ。(つう)

☆ねねは、最近梅雨なのにカラッと晴れたりもするから、すぐに戻りみみずなのかと思ったよ(笑)。(ねね)

★とにかく「みみず太くて」くらいなら分かるけど、このままじゃやっぱりね。今日のままいは、全体的に実景を捉えようっていうんじゃなくて、言葉で何とかごまかしちゃおうっていう感じの句が多かったんじゃないかなって思って、特選はとらなかったんだけど、「荒梅雨や」は、やっぱり実景としては具体的なものはないいんだけど、「荒梅雨」の季語と中七・下五とがかろうじて響いているのかなって思ってとりました。「それほどの用事でなくて梅雨に入る」っていうのも、分かるような分からないような…。(おとう)

☆煙に巻いた俳句です(笑)。(ままい)

★こらは「梅雨入」の季語とつき過ぎているのかもしれないね。「猫は目を」は、「目を伏せて」なら「やり過ごす」は言わなくても分かるのかな。「どうどうめぐりしてががんぼ見失ふ」は、自分の中に何かどうどうめぐりするものがあって、っていう句なのかもしれないけど、句としては「どうどうめぐりするががんぼ」を見失った方が面白いんじゃないかな。(おとう)

☆最初は、見るともなしにががんぼの軌跡を目で追っているうちに、いつの間にか見失っちゃったていうのを作ろうとしてたんだけど…。(ままい)

★「パイナップル何とはなしに笑ひ合ふ」は、ちょっと不気味かも(笑)。(おとう)

★「パイナップル、ハッハー」みたいな(笑)…。(つう)

★一人でもあれだけど、「笑ひ合ふ」だからねえ。(おとう)

☆うん、怖いよね(笑)。(ねね)

☆「何とはなしに食べ終はる」の方がいいの。(ままい)
 
★まだそのほうがいいかも。「何とはなしに食べつくす」なんてどう。(おとう)

☆おとうまでままいの毒が移ってしまったみたい(笑)…。(つう)

★「栗の花」は選ぼうかどうしようかと思ったんだけど…(おとう)

☆「栗の花」がどうなのかな。(ねね)

★何か力がない。(つう)

★どうなのかな。「栗の花」がやや唐突な感じがするのかな。「げぢげぢに」は、さっきも言ったけど、「に」だと、それまでは何もなくて、ふっとげじげじに気づいたその間の「一ト呼吸」だよね。ままいの言ってたのは、やっぱり「と」なんじゃないかな。(おとう)

★「げぢげぢ」ってのは題材としてどうなの。(つう)

★良く使われる俳諧的な季語だと思うよ。(おとう)

☆俳句ってきれいなものだけじゃなくて、滑稽なものなんかも詠むからね。(ままい)

★いわゆる和歌から生れた連歌の中では使えなかった俗っぽいものだとか、滑稽なものなんかが、俳諧の中では使われるようになったんだよ。(おとう)

☆ねねは前に「歯磨き粉が口から垂れた」みたいな句を作ったら、汚いって言われたよ。(ねね)

☆うん、それは汚いでしょ(笑)。汚いのと滑稽なのとは違うからね。(ままい)

★「チューブからはみ出す」っていう句はあるけど、「口から」はやっぱりきれいじゃないよね。(おとう)
    

最後はおとうの句についてです。

★「蜥蜴つと過り尻尾の影残す」の句をとりました。これは、蜥蜴がサッと行った時に尻尾だけ見えたって句でしょ。その蜥蜴の素早い感じっていうか、すぐ見失っちゃう感じがよく出てて、本当にその一瞬を句にしたんだなと思いました。「カーテンの」の句は、つうもカーテンのフワッとしてたのを作りたくて、でも「梅雨に入る」は嫌だな。(つう)

☆嫌なんだ(笑)…。(ままい、ねね)

★何で嫌なのかな。(おとう)

★何でっていうか、「カーテンの丸く吹かれて」ってのは風がスーッと入ってきて爽やかな感じなのに、じめじめした「梅雨に入る」ってのがどういう関係なのか良く分かんなかったから…。(つう)

★そう言われるとそうかもしれないね。(おとう)

☆ねねもつうと同じで、「蜥蜴」の句をとりました。ねねは、その「尻尾の影残す」が、蜥蜴が這って行く感じと、その途中でその尻尾の影が地面に残った感じがして、その影が残るところに陽射しの強さを感じて、その陽射しとか夏の陽を言わずにそれを表したところが、なかなかいいなと思いました。2番目に好きだったのは「カーテン」の句で、「丸く吹かれて」ってところが表現方法として好きで、でも、「梅雨に入る」はやっぱり気になって…。(ねね)

★相反するものがある。(つう)

☆そう、そう。「梅雨に入る」って季語は好きなんだけど、この句に合っているのかなって…。でも、「丸く吹かれて」に惹かれたのかな。「躑躅一列」と「紫陽花の」の句は、二つとも退屈して一人で居る感じがして、でも、ちょっと寂しいけど、ちょっと楽しんでる感じがして、家の廻りをしげしげ眺める時間が出来たんだなこの人は、ってことで(笑)…。今まであんまりなかった感じの句じゃないかな。「紫陽花の」の方は、「けふの水撒けり」で、昨日も今日も、毎日楽しんで水を撒いたり、いろいろと考えてるんだろうなっていう一種の哀愁みたいなものが感じられるし、「躑躅」の句は、「我が家始まりぬ」に、仕事は辞めても我が家の大黒柱だぞみたいな、お父さんぽいっていうか、家の主的な感じが出ていて、そこに「躑躅」をもってきたところがいいなと思いました。「ラベンダー」の句も「つんつく」まではいいんだけど、ねねは「無職」ってのが入ってるのは嫌いです(笑)。「かはほり」の句は、「乱舞」と「湿り」が合わない気がしました。でも、今日のおとうの句は全体的に好きでした。(ねね)

★それはどうも。(おとう)

★「青田」の句はどうなの。(つう)

☆「青田」の句は、青田を3回も使って、狙ってる感があって嫌でした(笑)。出だしの「青田青田」もね。(ねね)

★その上、「ひとつ飛ばしてまた青田」かい、って感じで(笑)…。(つう)

☆お笑い芸人の突っ込みみたいだね(笑)…。(ねね)

☆ままいは、「かはほり」の句が、使われている言葉が美しく響いたのと、「夕風湿りては」っていう捉え方も好きだったので、これを一番にしました。何か気品がある感じで、今日の私の句とは大分違う気がして(笑)…。逆に「蜥蜴」の句をとらなかったのは、若干こういう蜥蜴の句ってあるんじゃないかなって思ったんで、ねねの評を聞いて、陽射しの強さっていうのはなるほどなと思ったんですが、でも蜥蜴ってこんな感じで作りそうっていう気がしました。「紫陽花」の句は、やはり「けふの水」っていうのが良くて、昨日は昨日の、今日は今日のっていう、また新たな一日を生きるっていう感じが良く出てると思いました。「カーテンの」の句は、私はその「丸く吹かれて」が表現としてはそんなに好きじゃなかったので、これはパスしました。「ラベンダー」は、「つんつく咲かせ」が可愛いらしかったので、私も「無職」は嫌いなんですが(笑)、一応そこんとこは置いといて「つんつく」に一票みたいな感じでいただきました。「青田」の句は言わない(笑)。「躑躅」の句は、「一列」は自分も見ている情景なので、道の方から我が家を眺めて、ふむふむと充実感を味わってるみたいなのは分かるんですが、「始まりぬ」でいいのかなって…。あとの「南天」の2句は、私自身が南天を良く見てないのでダメだ、っていうその一点でしょうか。(ままい)

☆ねねは「南天咲く風の尻尾のその丈に」が、ちょっとイメージをつかめなかったんだけど。(ねね)

☆ああ、ままいもそっちの句は意味があんまり分かんなかった。で、最後のはここから見てるんだろうなって、風が入り過ぎちゃうくらいに入ってるから良く分かるんだけど、それがそんなに響かなかった。以上です。(ままい)

★ありがとうございました。以上で「父の日句会」の終了です。(おとう)


次回は少々先になるかもしれませんが、またお会いいたしましょう。

    






   
【作者略歴】 佐怒賀直美(さぬか・なおみ)
1958年(昭和33年)、茨城県古河市生まれ。埼玉県在住。
埼玉大学在学中に「橘」主宰・松本旭と出会い、妻・由美子も加わっていた学生句会で俳句を始める。
結社誌「橘」編集長。俳人協会幹事、埼玉文芸家集団委員。
「秋」主宰、正美は実兄。
句集は、第1句集『髪』(牧羊社・1986)・第2句集『眉』(東京四季出版・1998)・第3句集『髭』(本阿弥書店・2005)
第1夫婦句集『TEN』(自費出版・1995)・第2夫婦句集『TWENTY』(自費出版・2006)

【家族紹介】 妻・由美子、1961年(昭和36年)生まれ。「橘」同人。県立高校国語科教諭。俳人協会会員。
                句集『本当の顔』『空飛ぶ夢』
        長女・琴美、1988年(昭和63年)生まれ。大学2年生。
        長男・筑美、1991年(平成3)生まれ。浪人中
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