第69回 2011/6/21

  高濱虚子の100句を読む     坊城俊樹




   朝顔の映り熱帯魚は沈む       虚子
        昭和八年九月八日。草樹会。丸ビル集会室。
        

 面白い句だ。
 草樹会は当時の東大関係者たちによる句会。高浜虚子以下中田みづほ、山口誓子、水原秋桜子、高野素十、山口青邨らが参加した。東大俳句会を昭和七年に草樹会と改め、会員は学士会会員としていた。その後また東大俳句会と名乗る。
 当時の東大関係以外の俳人たちもこれに参加できるようにしたものと思われる。

 朝顔の色彩と、極彩色の熱帯魚のコントラストが明らか。
 また、朝顔という純日本式の存在が空間、そして水面にあり、熱帯魚という熱帯の異国の存在が水中に沈んでいるという位相も面白い。
 昭和八年当時の俳句としては、かなり斬新な絵画的構成ではなかろうか。はたして、この絵を夏の浴衣の図柄にしてみれば、今様の浴衣としてなかなかアバンギャルドな一品として売れるかも知れない。
 
 同日に、
 
  朝顔と置けば闘魚も色は秋 虚子

 この闘魚とは、鱸科の淡水魚の総称。どうもこの種類は、雄どうしが鰓や鰭を広げて闘争するのでこの名が附いたらしい。
 金魚の一種にも観賞用としてこの種類がいる。
 ただ、この場合その魚は熱帯魚のそれを連想してしまう。雷魚などは獰猛だが色は鉛色。むしろ、アマゾンなどにいるピラルクーや、もっと色彩のある魚が連想される。
 「朝顔」がこの席の兼題となっていたかもしれず、そこに列席し季題の本意にとらわれていたていた秀才の俳人たちはど肝を度肝を抜かれたようだ。
 「色は秋」という措辞も、その使い方の飛躍がみごと。朝顔の存在がグッピーや金魚、雷魚やピラルクーまでも変質させてしまう。
 この次の九月二十九日の草樹会にも次のような感覚するどい句を出している。

  提灯に赤筋少し秋祭      虚子

 虚子はどうも草樹会への出句には、日頃の写生の技とともに、かなりな感性の雄叫びを秀才どもに負けずと織り込んでいるようだ。



(c)Toshiki  bouzyou





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