第80回 2011/9/14

  高濱虚子の100句を読む     坊城俊樹



   雀等も人を恐れぬ国の春    虚子
        昭和十一年五月二日
        キューガーデン吟行。同行者八田一朗ほか
        夕刻日本人会に戻り食後披講。

 ヨーロッパ旅行の虚子たちはいよいよ海外の港に着く。
 二月二十四日には上海に入る。
 二十六日、二・二六事件の一報あり。
 二十八日香港に入る。ドライブと洒落ているが、国内争乱の折り、暢気である。
 三月一日、南シナ海を航行。四日、シンガポール入港。十日、コロンボ入港。
 二十五日、カイロから地中海を航行。
 二十七日、フランスは馬耳塞入港。マルセイユとも書く。しかし、なぜこんな当て字なのだろう。
 
  フランスの女美し木の芽また     虚子

 こんな句もものにしている。友次郎とパリに入り、ローヌ川河畔における嘱目の句である。こちらの方が有名なのだが、いろいろな人がさまざまなことを書いているのであえてやめておく。どれも、日本人としての白人崇拝の文章のようで面白くない。
 四月十八日、アントワープ。ベルギーに達する。どうやら虚子はこのあたりまで、アメリカを経由して世界一周のようにして帰朝する予定だったらしいが、友次郎と相談して断念する。
 二十日、ライン川に沿ってハイデルベルク。独逸に到着。

  古城にナチスの旗や春の風    虚子

 時代を物語る。しかし、リアルである。
 二十七日、英吉利汽船にてイギリスのハーウッチ港に着く。その後、リバプール経由して倫敦へ。LONDONである。
 筆者もかつて、虚子の道を尋ねて、ロンドンからシェークスピアの生誕地ストラットフォーエイボンを経由し、キューガーデンを吟行した。その一角に掲句の句碑がひつそりとあった。たしかに、そのあたりの雀たちは人に寄ってくる。
 この句碑は後年、虚子の娘の高木晴子一行によって建立されたという。

  TOKIWAYAに天長節の国旗かな    虚子

 虚子にしてめずらしい、英語入りの俳句。四月二十九日の昭和天皇の誕生日は、英国においても日の丸が掲揚されていた。大戦の前の親日的な様子がうかがえる。
 
 
 

(c)Toshiki  bouzyou






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