石田波郷の100句を読む《31》 2014/03/11




石田郷子





  春嵐鉄路に墓を吹き寄せぬ   波郷

 昭和25年作。
 波郷の寝ている部屋からは、隣の妙久寺の墓地が見えていた。
 〈表通りは屋並が出来てゐたが、尚焼跡は至るところに残つてゐた。貨物線寄りの、隣の妙久寺の墓地は、春の嵐が吹き荒れてゐた。未治の病巣を胸に私はそれを見つめてゐた〉。
 軽々と吹き寄せられたように犇めく墓群は、春光にきらめいて声なき声を挙げているようだ。波郷の胸の病巣も、戦争がもたらしたものである。机上で人々の貴い命を齣のように扱った人間たちに、祖霊の墓群までもが震えながら声を挙げているのではなかろうか。

  捨て菜の花墓群見ゆるばかりなり

も、同時作だろう。



(c)kyouko ishida

前へ 次へ    今週の1句   HOME