石田波郷の100句を読む《32》
2014/03/18




石田郷子





  濃き低き虹を冠りぬ幾工場   波郷

 昭和25年作。江東区砂町の風景だ。
  煤煙急ぎ雲はしづかに朝焼けぬ
も同じ頃の句。ベッドに仰臥して、殺風景な工場の上の空を眺めることが多かった。その下では多くの人々が立ち働いている。工場の煙突がいくつも煙を上げている。焼跡にごちゃごちゃした町並みが出来上がってゆく。
 雨あとの虹がそれらの上に低くかかった。「濃き低き」で、虹の光彩がありありと感じられ、雨に濡れた土の匂いまでしてくるようだ。

  虹消えて土管山なす辺に居たり
  虹を見し子の顔虹の跡もなし

 虹が消えるまで、病床でしきりに写生を試みる波郷の姿が浮かぶ。




(c)kyouko ishida

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