石田波郷の100句を読む《33》
2014/04/08




石田郷子





  雑炊や頬かがやきて病家族   波郷

 昭和26年作。
 「病家族」とは辞書にはないことばだが、波郷は別の句の自句自解にこう書いている。〈私の菌は出たり止まつたりだが、医学的には常時出てゐるものと考えるべきだから、一家の中に更に一郭をかまへてゐる。然も一家の中心である。病家族の語は、私はそんな意味につかふ。もつとも妻や子供も冬など風邪でかはるがはる臥てゐると家中病人になる。そんなときは文字通りの病家族だ〉。
 この句の病家族は、〈雑炊や〉の詠い出し、さらに〈頬かがやきて〉の描写によって、風邪の癒えつつあるような家族を想像させたが、波郷はこの句には、〈次第に体力も回復してきた。それに応じて家族も亦明るくなつてきた〉と書いている。
 しかし、立ち戻ってこの句は背景を知らなくても鑑賞できる。

  病家族二つの蚊帳の高低に

は、25年作で夏の情景。家族の暮らしをよく描いていて、蚊の多い時期、ベッドに寝ている病人の蚊帳と、蒲団に寝る母子の蚊帳を想像させる。

  蚊を搏つて頬やはらかく癒えしかな

は、この二句を見て続きのように思い出す句。これも26年作。





(c)kyouko ishida

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