石田波郷の100句を読む《37》
2014/06/10




石田郷子





  草木瓜や故郷のごとき療養所   波郷

 昭和28年作。草木瓜は、春、土手などでよく見掛ける小木。体調の安定している時など、療養所の敷地をよく歩いたようだ。草むらに点ずるように、朱色の一重の花をつける草木瓜には、なにか懐かしさを覚える。
 どれだけの時間をそこで過しただろう。それがすでに過去の生活の場であることを実感し、いま家族とともにいられる幸せを思っているのだろう。
 同時期の作に、

  春三日月砂糖工場の灯も淡し
  草餅を子と食ひ弱くなりしかな
  ゆるぎなく妻は太りぬ桃の下
  妻のみが働く如し薔薇芽立つ

などがある。





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