らくだ日記       佐怒賀正美
【作品37】
2009/03/26 (第471回)

 これは一転して言葉がねっとりと巻きつくように書かれた句。「うねりの」の語が宙吊りになったようにも感じられる。怒濤が岩に巻きつき、うねりとなって、そのうねりを抜け出るようにあるいはうねりに沿うように、海の鷹が舞っている。そのようなことを言いたいのかもしれないが、表現に精密さは欠ける。しかしながら、ことばを欠きながらも全体のことばのリズムで一句の情景を大づかみに描くことは出来ている。このような句を見ていると、規範的な言葉の置き方を超えてでも一句の中に情景と時間を織り込もうとする八束の表現主義的な側面が見えてくる。たいていは、このようなことは俳句に収まらないとして始めからあきらめてしまうものだが、八束は最晩年に至ってまで言葉の疾風怒濤を捨ててはいない。この句の場合は成功したとは限らないが、表現への情熱は衰えていない。この句を読み終えて、「海の鷹」が残像としてうねりつづけている。
     
 













     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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