らくだ日記       佐怒賀正美
【作品38】
2009/03/27 (第472回)

 この作品集には追悼句が多い。最初の句からこの句に至るまでに、すでに、永井龍男・江國滋酔郎・上田五千石・細見綾子・平畑静塔と亡き文人・俳人への弔句をなしている。そして、上掲の句は、妹和子への弔句となってしまった。前書に「妹和子〈病み果てのくくと胸鳴る明易し〉他の句を残して逝く 五句」とある。上掲の八束の句も心情がこもっているが、この前書にある妹の作もなかなかの名品ではないか。最後の声を絞るように、くくと胸が鳴いたのであろうか。そういう身の内の声を聞き止めながら、暁の中に最期の瞬間を感じ取っているような、女性的な抒情を含んだ哀しさが流れる。
 それに対して、八束の追悼句は想像力を駆使して、福岡に亡くなった義妹を思いながら、「妹の魂が遠くに見える不知火になっているかどうかは分からないが、筑紫に住んで流れ星のような妹の一生だった」と言うのだろう。「不知火かしらず」という措辞はなかなか思い浮かぶまい。八束らしい表現への意欲が見えて、感覚を効かせながらも、しっとりとした品格のある句になった。ちなみに、残りの四句とは、〈秋もはや頰を化粧(けは)ひし癌仏(がんぼとけ)〉〈菊花など柩に詰めればくくと鳴く〉〈玄海の秋風を着て葬(はふ)り来し〉〈玄海の空澄む夜の孤つ星〉であった。

     
 












     
   
   
   
   
     
『春風琴』平成9年作 
(C)2007 Masami Sanuka
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