火の歳時記

NO63 平成21414


片山由美子

 
  【火の伝説】第15回 「火の鳥」

 久々に「火の伝説」を。日本でも「不死鳥」あるいは「火の鳥」として知られているのがフェニックスである。数百年に一度、みずから香木を積み上げて火を付けそこへ飛び込んで身を焼き、その灰のなかから幼鳥となって現れて再生するという伝説の鳥だ。

 エジプト神話の霊鳥ベンヌあるいはベヌ(アオサギの一種)の伝説が古代のギリシャやローマに伝わって話が変わっていったらしく、元々のベンヌは不死鳥だが身を焼いて再生するということにはなっていなかった。ギリシャのヘロドトスが「歴史」第二巻に書き残している話では、羽毛に金色の部分と赤い部分とがあり、姿は鷲に似ているという。そしてヘリオポリス(古代エジプトの都市。ギリシャ語で太陽の町の意)の住人の話として、つぎのように記述している。五百年に一度、父鳥が死ぬとやってくる鳥で、没薬(もつやく)で卵を作り、なかをくりぬいて亡骸を入れ、太陽神の神殿に運ぶ。
 古代ローマのタキトゥスとプリニウスもフェニックスのことを書き残した。タキトゥスによればフェニックスが出現するのは一四六一年間隔だという。プリニウスは元老院議員マリニウスの話として、フェニックスの寿命はプラトン年、太陽、月、五惑星がはじめの位置へ戻る周期で、一二九九四年になるとのこと。ローマに運ばれて公開されたというまことしやかな話まで残っている。
 フェニックス伝説は世界各地に伝わり、その涙は癒しをもたらし、血を口にすると不老不死がかなうともいわれる。カシア柱の皮と香木の小枝を集めて巣を作り、さまざまな香料を満たしたなかに身を横たえて死ぬ。すると、その骨から小さな虫が現れ、鳥の姿になって亡骸を巣ごと太陽の町パンカイアの祭壇に運ぶ。虫から鳥になったものがフェニックスだというのである。
 さらに、フェニックスは魔神として登場する。ソロモンの七十二の悪魔のひとりといわれ、最初は美しい鳥の姿で現れ、快い声を発して詩や文芸を得意とする。しかし、ひとたび人間の姿となると恐ろしい声となるのだとか。キリスト教ではこの悪魔のほうはフェネクスと呼び、再生のシンボルである鳥をフェニックスと呼んで協会の装飾にも用いているのである。


   火の鳥の羽毛降りくる大焚火     上田五千石
   

 
 (c)yumiko katayama
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