1月27日 第429



 ≪さまざまなる月①≫

 現代を生きる俳人達のさまざまな月の句を見てゆきましょう。メインの季語が月ではない作品もありますが、いずれも月が重要な役割を果たしている作品ばかりです。

  月下の野翼あるものひそませて   青柳志解樹

 〈翼あるもの〉とは?簡単にいってしまえば夜は飛ぶことのできない鳥達のことなのでしょうが、それを詩的に表現すると、こういう美しい句になるのですね。黒々とした野、しかし、月光がわずかに及ぶ場所もちらほら見られ……いきものの気配がかすかに感じられる作品です。

  月光に飾らんとする兜あり      秋篠光広

 これはまた珍しい内容の句です。端午の節句の句のように思われるかたもいるかもしれませんが、この句における主季語は〈月光〉ですから、ここに登場する〈兜〉は本物なのですね。その持ち主はすでにこの世にありません。青ざめた月の光の中で飾る時、時空を超えた迫力をこの兜は帯びるのではないでしょうか。

  映りたる月もろともに水盗む    石井いさお

 この句の季語は〈水盗む〉。「水番」の傍題です。かつては、日照りが続くと田の水を確保するための争いが起きました。灌漑設備が整った現在ではあまり耳にしませんが、水の確保が命だった農業の厳しさを感じさせてくれる季語です。この句では、水面に映った月も一緒に盗むのだと詠まれています。池に映った月を掬うという句はよく目にしますが、〈水盗む〉という季語を用いた作品では珍しいと思われます。寂しい行為を描いているのに、〈月〉が登場することで、美しい作品となりました。




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(C) 2007 Michiko Kai
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