一本の村を出て行く月の道 神蔵器
〈一本の〉から下五の〈月の道〉まで少し距離がありますので、読んだ時に一瞬戸惑うかもしれません。ひっそりとした村から一筋の道が伸びている、そしてそれは月に照らされている――この道が月世界まで伸びていると考えるのは深読みがすぎるでしょう。この村へ入ってきた人、そして出ていった人、二度と帰らなかった人などを思いつつ、作品の持つ静けさを味わいたいと思います。
三日月の色となりたる干大根 桑原立生
この句は直接、月が登場するわけではありません。ほどよく皺が寄り、だいぶ干しあがってきたと思われるころの大根は三日月と同じ色になったよ、という句です。「満月の色」などにしますと、大根の形状とずれてしまいますので、ほっそりとした〈三日月〉にしたのでしょう。三日月のかたちではなく色との相似点を見出した美しい作品です。
月光に触れて白玉椿落つ 古賀まり子
〈白玉椿〉は蕾が丸く筒咲き、清楚なその姿から茶花として愛されています。その花が〈月光に触れ〉ることによって、ぽろりと落ちました。もちろん、月光が触れたからといって本当に花が落ちるわけではありません。作者がそう感じたというところが詩的なはからいであるわけです。
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